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けんきょうじゅなん

剣侠受難

国枝 史郎

「東京日日新聞」1926(大正15)年5月28日~11月14日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,479 字 · 394 页

青空文庫

ある時舞二郎がこういうと、平左衛門はものうそうに、「広太郎殿は立派な人物、それこそお京の婿などには、もったい至極もない方だ。お京の心も進んでいるなら、これに上こす良縁はない。が舞二郎、袴家は、あの通りの財産家。でこれは問題にならない」「武士の義理、世間への体面、これもさることではございますが、お京の心も察すれば」「お京の心? うむなるほど、では金弥殿を嫌っているのか?」「いえ嫌ってはおりませぬが、さらに一層広太郎殿の方へ……」「無理はないな、それはそうだろう。……だがそれは勘定へは入れまい。……幸いお京はおとなしく、我を押し通すところがない。気の毒ではあるが犠牲になってもらおう」

舞二郎の意見にもお京の心にも、充分理解は持ちながら、なお平左衛門は自説を棄てない。頑固一遍での旧弊なら、説破することも出来るのであるが、そうでないだけにむずかしい。

一方金弥は広太郎という、恋の競争者が出て以来、にわかに執ねくつきまとうようになった。財産からいっても、人物からいっても、到底広太郎の敵ではない。そこで金弥は唯一の武器、よい男前とうまい弁舌、それでお京の心を引き、他方両親をせき立てて、婚礼の日取りを早めることにした。