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けんきょうじゅなん

剣侠受難

国枝 史郎

「東京日日新聞」1926(大正15)年5月28日~11月14日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,479 字 · 394 页

青空文庫

額をおさえ、めくら滅法、かけ出した方角に谷があった。ガラガラガラガラと落ちる音! かれ勝手に飛び込んだのである。人間一人谷の底で、こなごなにこわれたに相違ない。

手足をバタバタおよがせたが、首をしめられたその武士も、すぐに伸びて動かなくなった。

ピョイと木蔭から飛び出したのは道中師風の小男である。

「どうでえ、あねご、こんなものでげす。中条流の捕り縄だって、時にはこんな働きもしまさあ」ほかならぬ早引忠三である。

「見事見事。ほめてやってもいいよ」虚無僧姿のイスラエルのお町、天蓋の中で愉快そうに笑った。

「それはそうとこのお武士さん、もう命は助からないのかしら? どっちが悪いのだか知らないが、二人に一人。可哀そうに、とどめを刺されようとしていたんだもの。だまって見ちゃアいられないじゃアないか。どういう身分のお方かしら?」および腰をしてのぞき込んだが、にわかにお町グタグタと、両膝をついて天蓋をはねた。「袴様だヨーッ、広太郎様だヨーッ」ヒシとだきあげたものである。

がっかりしたのは忠三で、「ワッ」というと飛びあがった。

「袴が広いか! 惜しいことをした。おれにとっちゃア恋がたき、助けなけりゃアよかった。