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けんきょうじゅなん

剣侠受難

国枝 史郎

「東京日日新聞」1926(大正15)年5月28日~11月14日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,479 字 · 394 页

青空文庫

奥の声

と、文三ピッタリと身体を塀へくッつけた。

「どこかに節穴でもあるまいか。のぞいて見てえ、のぞいてみてえ」こんなことをつぶやいている。指でさぐっても節穴はない。板と板との合わせ目もない。だが容易にあきらめない。塀に添いながらノロノロと、先へ先へと歩いて行く。まがり角まで来た時である。月光に浮かんで一条のとり縄、弓形をなして飛んで来たが、キリキリキリ、首を巻いた。気が遠くなってぶったおれる。と現われたのは早引の忠三、縄を解くと脈を見た。

「殺してしまっては都合が悪い。気絶ぐらいが格好だ」ズルズルと木蔭へ引っ張り込んだ。「いったいどなたのお屋敷だろう! 大々名の下屋敷、といったような伽藍だなあ。とにかく様子を探ってみよう」庭内の立ち木へ縄を投げた。それが巻きついてピンと張る。そいつをたぐると足で塀、踏まえてツルツルとよじのぼった。

奥の声

塀へよじ登った早引忠三、足をちぢめると飛びおりた。さても広大な裏庭である。立ち木が多いので先が見えない。地をはいながら進んで行く。と一むらの竹林があった。月光を受けて光っている。そこを廻ると草ぶきの亭、だが人はいないらしい。