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けんきょうじゅなん

剣侠受難

国枝 史郎

「東京日日新聞」1926(大正15)年5月28日~11月14日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,479 字 · 394 页

青空文庫

「正史をあむということは、偉人を世の中へ出すことではなく、偉人をぶちこわすことでござる」老人の声が聞こえてきた。「できあがっているものを鵜呑みにする、この傾向はいけませんな。一度は疑ってみるべきです。あの人物は偉人だという。しかし信じてはいけません。偉人ではないときめるのです。そうして材料をあつめるのです。偉人ではないという材料をな。するとこれも当然なことには、たいがい偉人ではなくなります。一応値打ちをひっくり返す! 真髄をつかむ秘訣ですな。もっともどんなにひっくり返しても、ひっくり返らない人物もあります。それこそ本当の偉人です」

「どんなお方が偉人でしょう」

「大楠公などは偉人ですな。それだのにロクないしぶみさえない。是非建てなければなりませんな。さよう湊川の古戦場へな」

だんだん真面目な話になる。忠三なんとなく引っ張り込まれ、耳をすまして聞いていた。また、しばらく静かになった。

と少年の声がした。

「紀州の叔父上のお振る舞いなど、いかが先生には思しめしますかな?」

「ちと奔放に過ぎますな。平地に波瀾を起こされるようで」

「困ったものでございます」

「そのうちおいさめなさるがよろしい」