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けんきょうじゅなん
剣侠受難
国枝 史郎
「東京日日新聞」1926(大正15)年5月28日~11月14日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,479 字 · 394 页
ガラリと鉄杖を落としてしまった。
「しめた!」と叫んだ長崎左源太、斬り込みはしない、太刀を引き、パッと横っ飛びに逃げ出した。
走る走る、見えなくなった。その素早さ、猟犬である。
後を見送った島原城之介、しばらくはぼんやり立っていた。ひどく感心したらしい。ややあって大変機嫌のよい、愉快そうな笑い声を響かせた。
「ワッハッハッハッハッ、逃げっぷりがいい。きゃつたしかに出世するなあ。というのは機を見るに敏だからよ。たいがいのヤクザはあんな場合にはきまって斬り込んでくるものだ。勝てるというような錯覚でな。が、飛び込んで来たが最後、血ヘドを吐いてくたばらなけりゃアならねえ。城之介様の高足駄、一本歯の利器と来た日には、掻い撫での斧より役立つんだからなあ。胸を蹴ってやるばかりさ。だがそれにしてもおれの得物を、たたき落とした人間といえば、あいつ以外にはないのだからなあ。……いや待ってくれ」と考えた。「たしかもう一人あった筈だ。隅田堤で逢った奴! なんだなんだ、ここにいらあ」ひっ抱えていた広太郎へ、この時はじめて眼をやった。と、どうしたのか城之介、「や、しまった。これはいけない!」