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けんきょうじゅなん

剣侠受難

国枝 史郎

「東京日日新聞」1926(大正15)年5月28日~11月14日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,479 字 · 394 页

青空文庫

木地師の郷

そっちへズンズンと歩いて行く。

どこまで行こうとするのだろう?

駕籠二挺、百二十人、揃う足並み、光る鎌!

どこまで行こうとするのだろう! かれらは郷へ帰るのであった。

二千九百尺の八ヶ岳、その大傾斜地の富士見高原! そこに郷があるのである。

木地師の郷

八ヶ岳の大傾斜、富士見高原の木地師の郷! 囲繞しているのは森林である。杉、檜というような喬木ばかりが聳えている。その真ん中に空地がある。そこに立っている数百戸の木小屋、木口は非常に立派ではあるが、その造作は粗末である。それが木地師達の住居である。ところがそれらの中央に、二棟の大きな建物があった。その一棟は屋敷づくりで、頭の将右衛門の住居であるが、もう一つの方は工場のような、だだっ広い長方形の建物である。なんだろういったいその建物は? やっぱりそれは工場なのであった。誰かがその中をのぞいたなら、シュッシュッシュッと調べ革が廻り、グルグルグルとろくろが廻り、大きなのこぎりが自然に廻転し、てこが上下へあがりさがりし、そうしてそれらの機械の間を、多数の男女の木地師達が、真面目に愉快そうに熱心に、立ち働いているのを見ることが出来よう。