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けんきょうじゅなん
剣侠受難
国枝 史郎
「東京日日新聞」1926(大正15)年5月28日~11月14日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,479 字 · 394 页
平和と処女性
と返って来る。
広太郎は眠りはしなかった。じっと考えにふけっていた。
「さわってはいけない、過ぎ去ったことへ!」口の中でつぶやいた。
平和と処女性
「おれは何にも知りたくない。おれはなんにも聞きたくない。過去をほじくるということは、ろくな結果を持って来ない。現在だけで結構だ。ひとの過去も知りたくない。自分の過去も知らせたくない。それでいいのだ」
お京の膝を枕にし、袴広太郎は考えた。「ききたいことは沢山ある。あの夜小松原の屋敷から、どうして突然身をくらませ、今日までどこにいたのだろう? そうしてどういう理由があって、こんな木地師の郷などへ、この娘は入り込んで来たのだろう? これからこの娘はどうするつもりか? ……がそんなことはどうでもいい。おれにとっては初恋人、そのお京様と逢ったのだ。もうそれだけでいいではないか。なんにも苦情をいうところはない。君尾にしろお町にしろ、こうなっては影が薄い。なんといっても初恋人、このお京様のなつかしさは、おれには何物にも換えがたい」
これが広太郎の心持ちであった。
お京の心持ちはわからない。
しかしやっぱり広太郎と同じに、いうまい聞くまいとしているらしい。