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けんきょうじゅなん
剣侠受難
国枝 史郎
「東京日日新聞」1926(大正15)年5月28日~11月14日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,479 字 · 394 页
無礼講
調べ革の音が聞こえてきました。仲よく歌っている歌声もね。……これでおしまいよ、妾の夢は」
ホッ、ホッ、ホッと明るく笑った。邪心のない晴れやかな笑いである。
「風変わりの夢でございますな」こういったのは新十郎。「ええとそこで君尾様には、その大好きなお方のことを、フッツリ断念なさいましたので?」
「そうよ、夢が本当ならね。……あら!」というと足を止めた。「あんなところに篝火が!」
いかさま遙かの行く手にあたり、大篝火が燃えている。それに照らされて桃色の、二張の陣幕が見えている。その方角から川音がする。そいつをぬってカチカチと、武器や物の具の音がする。それを越して絶壁がある。その絶壁につきあたり、はね返ってくる人声がする。
正雪と時行の陣営が、そこに張られてあったのである。
無礼講
ここは正雪の陣営である。
陣幕の中は陽気である。今にもいくさが始まるかもしれない……といったような気配さえない。いわゆる無礼講の酒もりが、さッきから始まっているのである。四隅で篝火が燃えている。火気に煽られて陣幕の裾が、ハタハタハタハタと鳴っている。染め出してある菊水の定紋、そのつどユラユラと波を立てる。