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けんきょうじゅなん

剣侠受難

国枝 史郎

「東京日日新聞」1926(大正15)年5月28日~11月14日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,479 字 · 394 页

青空文庫

漂泊

朱舜水と光圀の一行である。

「これは珍しい! 死蝋がある」こういったのは朱舜水、滝壺をのぞいての言葉である。

「それにもう一つ修験者の死骸が」こういったのは水戸光圀。

「滝のうしろで人声がします。お爺さんの声と娘さんの声が」

こういったのは君尾である。

朝日が上った。鬨の声がした。正雪、時行の連合軍が、木地師の郷へ攻め込んだらしい。と、木地師の郷にあたり、すさまじい爆発の音がした。つづいて立ちのぼる黒煙り! しかしこの頃木地師の一隊は千里のあなたを走っていた。

漂泊

富士見を離れる十里の地点、木地師の大軍が走ってゆく。先に立ったは将右衛門、左右に二挺の駕籠が行く。左の駕籠にはお京様、右の駕籠には広太郎、のどかな様子をして乗っている。その後から行くものは、男の木地師、女の木地師、老人、子供、それから家畜――馬や犬やにわとりや! それから荷車、それから小荷駄、総勢すべて五百人、二列縦隊、トットと走る。みんな陽気で元気がよい。馬のいななき、犬の吠え声、鶏の羽ばたき、子供の叫び声、みんなみんな活気がある。女の笑い声、賑わしい。男のしゃべり声、勇ましい。裾野は広い、草は黄色い、あちこちに櫨もみじの叢がある。