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けんきょうじゅなん
剣侠受難
国枝 史郎
「東京日日新聞」1926(大正15)年5月28日~11月14日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,479 字 · 394 页
焔がかたまっているようだ。森! 狐が飛び出した。林! 兎が走り出た。沼では鴨が騒いでいる。菅の中からは葦切りの声! と、鉄砲の音がした。猟師が朝駈けをしたのだろう。夏沢岳、天狗岳、中山、丸山、茶臼山、縞枯岳に横ヶ岳、東の空にそびえている。その上へ懸かった明けの空、空を横切る渡り鳥、朝日が出た! 霧が晴れた! なんとキラキラ露の玉が、光りの歌をうたっているんだ。
トットと走る。木地師の大軍。さて行く先は? 北だ! 北だ!
「日が出た、日が出た」と将右衛門、さも愉快そうにしゃべりだした。「日の出を合図に約束の竹法螺、ポーともなんとも吹かなかったので、正雪時行の連合軍、せめているだろうよ、富士見の郷を! と轟然たる爆発の音、時間をはかって伏せて置いた地雷、破裂したろうよ、今頃はな! アッハハハ驚いたろうなあ。そうともそうとも驚かなければならない。人っ子一人いないんだからなあ。火焔黒煙のその中で、調べ革ばかりが廻っている。螺旋ばかりが廻っている。鉄槌ばかりが働いている。こいつア驚くのがあたりまえさ。ついているんだおいらにはな。山の小父さんという人がよ! それから伝えられたスペイン火術、自然に破裂を致します。