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けんきょうじゅなん

剣侠受難

国枝 史郎

「東京日日新聞」1926(大正15)年5月28日~11月14日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,479 字 · 394 页

青空文庫

「はいさようでございました。でも神様は司僧様の霊をも、天国へ導かれるでございましょう」

「でもお祖父様はいいましたわ、『ああ俺だけは地獄へ堕ちよう』と」

「だから天国へ参られます」

「どうぞ天国へ行かれますよう」

雪を踏んで二人歩いて行く。二人の影法師が雪へうつる。見送っているのは山々である。さむざむと白無垢をまとっている。

「予感があたって袴様とは、お逢いすることができませんでした」お町の声はむせぶようである。

「一日違いでございましたな。残念なことをいたしました」

「木地師に連れられて袴様、どこへおいでになられたやら! ……」やはりむせぶような声である。「でもよいことを致しました。この富士見へ来たばかりに、なくなられた筈のお祖父様と、お目にかかることが出来ましてね」

「そうしてお看護をなさいました」

「ああそうしてお葬式をね」

「滝壺の中で司僧様、天童様とご一緒に、眠られることでございましょう」

「お二人ながら唐櫃の中で」

「原の城から逃げられた時、身を隠されて来た唐櫃の中で」

「ああ何もかも元へ帰った」

二人ふもとへ下って行く。裾の辺を風が吹く。茫々とした冬の風だ。