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けんきょうじゅなん

剣侠受難

国枝 史郎

「東京日日新聞」1926(大正15)年5月28日~11月14日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,479 字 · 394 页

青空文庫

これがご遺言でございました」

「故国?」と忠三は不思議そうにきいた。

「スペイン!」とお町がすぐ答えた。「お祖父様とそうしてお母様のお国!」

「海のあなただ! 遠い国だ!」

「妾そこへ参ります」

忠三はじっと考えた。「私もお供を致しましょう」

「どうぞね、お願い致します」

「参りますとも、僕となって」

「いいえ、仲のよいお友だちとして」

「そうしてスペインでくらしましょう」

「ええ、神様にお仕えして」

「まずとりあえず江戸へ帰り、旅の仕度をいたしましょう」

「花ちゃんとそうしてネロちゃんを連れてね」

「そうして南蛮屋を片付けて」

「東海道を下りましょう」

「まず長崎へ! それから船で!」

「スペインへねえ! スペインへねえ」突然お町は眼をおさえた。「空しいものを追っていました! ああ妾は、空しいものを!」

「巻軸?」と忠三きき返した

「袴様! 袴様! 袴様!」

その声が高原をはって行く。木精が袴様! と返って来た。

「おあきらめにならなければいけません」忠三の声は病んでいるようだ。「お嬢様ばかりではございません。誰もかもそうなのでございますよ。空しいものばかり追っております」

「袴様!」