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けんきょうじゅなん

剣侠受難

国枝 史郎

「東京日日新聞」1926(大正15)年5月28日~11月14日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,479 字 · 394 页

青空文庫

よろしゅうございます。お引き受けしましょう。今晩のうちに片をつけ、明日中にお京様を、お屋敷へお返しいたしましょう』と、さもすがすがしく引き受けてくれたが、そんな毒婦とは思われなかった。もっとも俺がうれしまぎれに、『このこと成功いたしましたならば、どのようなお礼でも致します』と、こういうと、微妙な笑いをたたえ、『お金もいらず、物もいらず、何も戴こうとは思いませぬが、そのうちあるいはあなた様の、一番一番大事なものを、戴きに上がるかもしれません』と、なぞのような言葉をもらした時、何かしらおれはゾッとして、寒気をさえも催したものだが、こんな点からいう時は、なるほどなあ、毒婦かもしれない」

股腕のしこりを揉みほぐし、広太郎はやおら立ち上がった。

と、その時、星の下辺、屋根棟低く黒々と、まりのような物が飛んでゆく。風を切るのは翼の音、鳥にしては大きな鳥だ。

「はて何だろう?」と見上げたが、たいして気にもとめなかった。

碁盤目小路をやっと出て、自分の屋敷の方へ帰って行った。

さて一羽の巨鳥であるが、碁盤目小路の屋根上を過ぎ、深夜の江戸を西南に向かい、赤坂の方へかけてゆく。