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ことうのおに

孤島の鬼

江戸川 乱歩

「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页

青空文庫

その上、君は残酷にも平気で、さも嬉しそうに、初代さんの噂をさえ聞かせたではありませんか。僕があの時どんな心持だったと思います。恥しいことです。いつも云う通り、僕はこんなことで君を責める権利なぞあろう道理はないのです。でも、僕はあの君の様子を見て、この世の凡ての望みを失ってしまったような気がした。本当に悲しかった。君の恋も悲しかったが、それよりも一層、僕のこの人並でない心持が恨めしくて仕様がなかった。それ以来というもの、僕が幾度手紙を上げても、君は返事さえ呉れなかったでしょう。以前はどんなにつれない返事にせよ、返事丈けはきっと呉れたものだったのに」

いつになく、酔っている諸戸は雄弁家であった。彼の女々しくさえ見えるくり言は、黙っていれば、果しがないのである。

「それで、あなたは、心にもない求婚をなすったのですか」

私は憤ろしく、彼の饒舌を中断した。

「君はやっぱり怒っている。無理はありません。僕はどんなことをしてでも、このつぐないをしたいと思います。君は土足で僕の顔を踏んづけてくれても構わない。もっとひどいことでもいい。全く僕が悪かったのだから」

諸戸は悲しげに云った。