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ことうのおに

孤島の鬼

江戸川 乱歩

「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页

青空文庫

それは兎に角、北川氏は相手が案外組しやすくて、段々話が佳境に入るのを、ゾクゾク嬉しがって、胸を躍らせながら、質問を進めて行った。

「で、つまり何だね。七月五日に友之助を連れてったのは、お父つぁんでなくて、親方の知合なんだね。どこへ行ったね、お前聞かなかったかね」

「友のやつ、俺と仲よしだったから、俺丈けにそっと教えてくれたよ。景色のいい海へ行って、砂遊びをしたり泳いだりしたんだって」

「鎌倉じゃないの」

「そうそう、鎌倉とかいったっけ。友のやつ親方の秘蔵っ子だったからね。ちょくちょく、いい目を見せて貰ったよ」

ここまで聞くと、北川氏は諸戸の突飛な推理(初代殺しも、深山木氏を殺したのも、直接の下手人は友之助であったという)が、案外当っていることを、信じない訳には行かなかった。だが、迂闊に手出しをするのは考え物だ。親方というのを拘引して、実を吐かせるのもいいが、それでは却って、元兇を逸する様な結果になるまいものでもない。その前に彼の背後の「お父つぁん」という人物を、もっと深く研究して置く必要がある。元兇はその「お父つぁん」の方かも知れないのだから。それに、この事件は単なる殺人罪ではなくて、もっともっと複雑な恐ろしい犯罪事件かも知れぬ。