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ことうのおに
孤島の鬼
江戸川 乱歩
「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页
お前達の親方ってな、そのお爺さんのことさ」
「違う違う。親方はそんなお爺じゃありゃしない。腰なんぞ曲っているものか。お前見たことがないんだね。尤も小屋へは余り顔出しをしないけど、親方ってのは、こう、ひどい傴僂のまだ三十位の若い人さ」
北川氏は、なる程傴僂だったのか、それで老人に見えたのかも知れないと思った。
「それがお父つぁんかい」
「違う違う。お父つぁんが、こんな所へ来ているものか、ずっと遠くにいらあね。親方とお父つぁんとは、別々の人なんだよ」
「別々の人だって。するとお父つぁんてのは、一体全体何者だね。お前達の何に当る人なんだね」
「何だか知らないけど、お父つぁんはお父つぁんさ。親方と同じ様な顔で、やっぱり傴僂だから、親方と親子かも知れない。だが、俺ぁ止すよ。お父つぁんのことを話しちゃいけないんだ。お前は大丈夫だと思うけど、若しお父つぁんに知れたら、俺はひどい目に合わされるからね。又箱ん中へ入れられてしまうからね」
箱の中と聞いて、北川氏は現代の一種の拷問具とも云うべき、ある箱のことを聯想したが、それは同氏の思違いで、一寸法師の所謂「箱」というのは、そんな拷問道具なんかより幾層倍も恐ろしい代物であったことが、あとで分った。