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ことうのおに
孤島の鬼
江戸川 乱歩
「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页
諸所に胎内くぐりめいた穴のある奇巌がそそり立っていた。
日の暮れぬ内に島に着かぬと、今夜は闇だからというので、老漁夫は船足を早めたが、大きく突出した岬を一つ廻ると、岩屋島の奇妙な姿が眼前に現われた。
全島が岩で出来ているらしく、青いものはほんの少ししか見えず、岸は凡て数丈もある断崖でこんな島に住む人があるかと思われる程であった。
近づくに従って、その断崖の上に、数軒の人家が点在するのが見えて来た。一方の端に何となく城廓を思わせる様な大きな屋根があって、その側に白く光っているのが、問題の諸戸屋敷の土蔵らしかった。
舟は間もなく島の岸に達したが、安全な舟着場へ這入る為には、断崖に沿って暫く進まなければならなかった。
その間に一箇所、断崖の裾が、海水の為に浸蝕されて出来たものであろう、真暗な奥行きの知れぬ洞穴になっている所があった。舟は洞穴の半町ばかり沖を進んでいたのだが、老漁夫は、それを指差して、こんなことを云った。
「この辺の者は、あの洞穴の所を、魔の淵と云いますがのんし、昔からちょいちょい人が呑まれるので、何やらの祟りや云うてのんし、漁師共が恐れて近寄りませんのじゃ」