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ことうのおに
孤島の鬼
江戸川 乱歩
「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页
「聞かんな。諸戸屋敷の傴僂さんが、ここから汽船に乗りなしたら、じき分るさかいに、滅多に見逃しやしませんがのんし。そやけど、傴僂さんとこには、帆前船があるさかいにのんし。勝手にどこへでも舟を着けて、わしらの知らん内に、東京へ行ったかも知れんな。あんた方、諸戸屋敷の旦那を御存知かな」
「いや、そういう訳じゃないが、一寸岩屋島まで行って見たいと思うのでね。あすこまで舟を渡してくれる人はないだろうかね」
「サア、天気がええのでのんし、生憎皆漁に行ってるさかいになあ」
だが、私達が頻りに頼むものだから、方々尋ね廻って、結局一人の年とった漁師を傭ってくれた。それから賃銭の交渉をして、サアお乗りなさいと用意が出来るまでには、気の長い田舎のことで、小一時間もかかった。
舟はチョロと称する小さい釣舟で、二人乗るのがやっとであった。「こんな舟で大丈夫か」と念を押すと、老漁夫は「気遣いない」と云って笑った。
沿岸の景色は、どこの半島にもよく見る様な、切り立てた断崖の上部に、こんもりと森の端が縁どり、山と海とが直ちに接している感じであった。幸い海はよく凪いでいたけれど、断崖の裾は、一帯に白く泡立って見えた。