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ことうのおに

孤島の鬼

江戸川 乱歩

「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页

青空文庫

私は二人の会話を聞いていて、諸戸が父親のことを丈五郎という名で呼んだのも異様に感じたが、それよりも、もっと不思議なことがあった。と云うのは、老婆が「お父つぁん」と云った。その調子が、気のせいか、軽業少年友之助が死ぬ少し前口にした「お父つぁん」という呼声と、非常によく似ていたことである。

「お父つぁんはいるよ。でもね、此頃機嫌が悪いから、気をつけるがいいよ。まあ兎に角、そんな所に立っていないで、お上りな」

私達は黴臭い真暗な廊下を幾曲りかしてとある広い部屋に通された。外観の荒廃している割には、内部は綺麗に手入れがしてあったけれど、それでも、どこやら廃墟といった感じをまぬがれなんだ。

その座敷は庭に面していたので、夕闇の中に広い裏庭と、例の土蔵のはげ落ちた白壁の一部がぼんやり見えたが、庭にはやっぱり、無残に掘返したあとが歴々と残っていた。

暫くすると、部屋の入口に、物の怪の気配がして、諸戸の父親の怪老人が、ニョイと姿を現わした。それが、もう暮れ切った部屋の中を、影の様に動いて、大きな床の間を背にして、フワリと坐ると、いきなり、

「道、どうして帰って来た」