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ことうのおに

孤島の鬼

江戸川 乱歩

「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页

青空文庫

ところが、二度目にそこへ行った時、それは最初秀ちゃんを垣間見た日の夕方であったが、私にとって、一層困ったことが起った。と云うのは、その時、秀ちゃんの方でも、一方ならず私を好いていることが分ったのだ。何と云う因果なことだ。

たそがれの霞の中に、土蔵の窓がバックリと黒い口を開いていた。私はその下に立って、辛抱強く娘の顔の覗くのを待っていた。待っても待っても、黒い窓にはいつまでたっても何の影もささぬので、もどかしさに、不良少年みたいに、私は口笛を吹いたものだ。すると、寝そべっていたのが、いきなり飛び起きた感じで、秀ちゃんのほの白い顔が、チラと覗き、アッと思う間に、何かに引ぱられでもした様に、引込んでしまった。一瞬間ではあったが、私は秀ちゃんの顔が、私に向ってニッコリ笑いかけたのを見逃がさなんだ。そして、「吉ちゃんの方がやいていて秀ちゃんを覗かせまいとするんだな」と想像すると、何とやらくすぐったい感じがした。

秀ちゃんの顔が引込んでしまっても、私はその場を立去る気にはなれず、未練らしくじっと同じ窓を見上げていたが、ややあって、窓から私を目がけて、白いものが飛出して来た。