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ことうのおに
孤島の鬼
江戸川 乱歩
「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页
下手人はまるで分らないと云うことだよ。とんだ目に遭ったものだね」
好人物のK氏は、人事でないという調子で答えた。
痛さが余り烈しい時には、人はすぐに泣き出さず、却て妙な笑顔をするものだが、悲しみの場合も同じことで、それが余りひどい時は、涙を忘れ、悲しいと感じる力さえ失った様になるものである。そして、やっとしてから、余程日数がたってから、本当の悲しさというものがわかって来るのだ。私の場合も丁度それで、私は自動車の上でも、先方について、初代の死体を見た時でさえも、何だか他人のことの様で、ボンヤリと普通の見舞客みたいに振舞っていたことを記憶している。
初代の家は巣鴨宮仲の表通りとも裏通りとも判別のつかぬ、小規模な商家としもうた家とが軒を並べている様な、細い町にあった。彼女の家と隣の古道具屋と丈けが平屋建てで、屋根が低くなっているので、遠くからでも目印になった。初代はその三間か四間の小さな家に彼女の養母とたった二人で住んでいたのである。
私達がそこに着いた時には、もう死体の調べなども済んで、警察の人達が附近の住人達を取調べている所であった。初代の家の格子戸の前には、一人の制服の巡査が、門番みたいに立はだかっていたが、K氏と私とは、S・K商会の名刺を見せて、中へ入って行った。