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ことうのおに
孤島の鬼
江戸川 乱歩
「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页
六畳の奥の間に、初代はもう仏になって横わっていた。全身に白い布が覆われ、その前に白布をかけた机を据えて、小さな蝋燭と線香が立ててあった。一度逢ったことのある、小柄な彼女の母親が、仏の枕元に泣き伏していた。その側に、彼女の亡夫の弟だという人が、憮然として坐っていた。私はK氏の次に母親に悔みを述べて、机の前で一礼すると仏の側へ寄ってそっと白布をまくり、初代の顔を覗いた。心臓を一抉りにやられたということであったが、顔には苦悶の痕もなく、微笑しているのかと思われる程、なごやかな表情をしていた。生前から赤味の少い顔であったが、それが白蝋の様に白けて、じっと目をふさいでいた。胸の傷痕には、丁度彼女が生前帯をしめていた恰好で、厚ぼったく繃帯が巻いてあった。それを見ながら、私は、今からたった十三四時間前に、新橋の鳥屋で差向いに坐って笑い興じていた初代を思出した。すると、内臓の病気ではないかと思った程、胸の奥がギュウと引締められる様な気がした。その刹那、ポタポタと音を立てて、仏の枕元の畳の上に、続けざまに私は涙をこぼしたのであった。
いや、私は余りに帰らぬ思出に耽り過ぎた様である。