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ことうのおに
孤島の鬼
江戸川 乱歩
「朝日」博文館、1929(昭和4)年1月号~1930(昭和5)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 页
よく晴れた、非常に暑い日であった。朝九時頃、私が鎌倉へ行こうと着換えをしている所へ、深山木から電報が来た。逢い度いというのだ。
汽車は、その夏最初の避暑客で可成混雑していた。海水浴には少し早かったけれど、暑いのと、第一日曜というので、気の早い連中が、続々湘南の海岸へ押かけるのだ。
深山木の家の前の往来は、海岸への人通りが途絶えぬ程であった。空地にはアイスクリームの露店などが、新しい旗を立てて商売を始めていた。
だが、これらの華やかな、輝かしい光景に引換えて、深山木は例の書物の山の中でひどく陰気な顔をして、考え込んでいた。
「どこへ行っていたのです。僕は一度お訪ねしたんだけど」
私が這入って行くと、彼は立上りもしないで、側の汚いテーブルの上を指しながら、
「これを見給え」
と云うのだ。そこには、一枚の手紙様のものと、破った封筒とが放り出してあったが、手紙の文句は、鉛筆書きのひどく拙い字で、次の様に記されてあった。
貴様はもう生かして置けぬ。明正午限り貴様の命はないものと思え。併し、貴様の持っている例の品物を元の持主に返し(送り先は知っている筈だ)今日以後かたく秘密を守ると誓うなら、命は助けてやる。