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しきぶこうじ

式部小路

泉 鏡花

「大阪毎日新聞」1906(明治39)年1月1日~1月27日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 74,847 字 · 149 页

青空文庫

同一装で。香水の瓶の口を開けていたのを、二度目に行燈を提げて上って女房が見た。が、その後の事は分らぬ。もっとも屏風をたてて下りた。その後はいかにしけんか知らず。

ただ、真夜中の頃、みしみしと二階を一人が降りて来た。お夏の跫音ではない。うとうとした女房、台所の傍なる部屋で目を覚すと、枕許を通るのは愛吉で。憚りかと思うと上框の戸を開けた。

(おや、帰るんですか。)

(私も店がございます、済みませんが、あとのしまりを、)と不思議なことをいって、戸を開けて出たと思うと、日和下駄を穿いて来たのに、カラリとも音がせぬ。耳を澄ましていると、ひたひたと地を蹈む音。およそ池の坊の石段のあたりまで、刻んできこえたが、しばらく中絶えがして、菊畑の前、荒物屋の角あたりから、疾風一陣! 護国寺前から音羽の通りを、通り魔の通るよう、手足も、衣も吹靡いて、しのうて行くか、と犬も吠えず鼠もあるかぬ寂とした瞬間のうつつに感じた。

女房は夢かと思った。が、起き出て土間へ下りると、幻ではない。格子戸は開いたまま、大戸はしまっていたが、掛けがねが外ずれていた。

火沙汰を憂慮って、行燈で寝るほど、小心な年寄。