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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
ここらは名うてな盗人の巣だ。それとも命の捨て場にでも困っているのかね」
「冗談ではない――」と、盧は言った。「命あっての物種だろうではないか。どこか無事な所へ着いて、ひとまず宿をとりたいのだが」
「そいつは生憎だ。ここらには旅籠もねえ。本街道へ出るまでにしても、三十里は軽くあらあ」
「駄賃はいくらでも出そう。舟で渡してくれないか。灯のある岸まで」
「乗ンなせえ。その代り銭十貫、銀でもいい、前払いで貰おうか」
盧はほっとした。過分な礼を見たせいか、船頭の櫓は気持ちよく水を切る。たちまち芦の洲を幾めぐり、水上十数町も漕ぎ去り漕ぎ来ったと思われる頃――ふと、べつな小舟が行くてに見えて――上には二ツの人影、ひとりは長い水竿を手に唄っていた。
本は嫌いで
詩も知らず
虎のさし身に
茶わん酒
飽きりゃ水滸で
鯨釣る
美い声なので凄味があった。わけもなく盧はハッとした。いや何を思うひまもない。芦の叢からまたも一舟が漕ぎすすんで来る。そしてそれにも二人の男がみえ、ひとりの男がこう唄う。
おまえ待ち待ち
芦の花
色香はないが
欲でもない
梁山泊の上段に
すえてみたさの玉麒麟
つづいてまたも同じような一艘が漕ぎ寄せて来た。