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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

なんで忘恩の賊となり、おかみへ反抗できようか。いざ、弓でも槍でも持って来て、この胸板をグザとやって下さい。――霹靂火秦明の血はまだきれいなはずだ」

それを見ていた花栄は、聚議場の階を馳け降りて来て、

「まあ、まあ」

と、彼をなだめて連れもどった。

「お心もちはよく分りますが、ともあれそのお体ではまだご無理。もすこしご養生をしなくッちゃいけません」

秦明の立場は同情にあたいする。特に宋江はよく察していた。それにほだされて彼は泣いた。宋江や花栄や頭目たちは彼を慰めるべく小宴の酒盛りをひらいた。しかしほがらかに酔いもできない秦明だった。

またそれから五日ほどおいて、彼はいよいよ山を降りた。宋江以下は麓まで見送って来て、彼の甲冑や狼牙棒を返してくれた。彼は恩を謝して、馬にまたがるやいな、青州の方へさして飛ぶが如く帰って行った。

ところがである。その次の日だ。青州郊外十里の辺まで来た秦明は、

「や、や、これはどうしたことだろう?」

と茫然、馬をとめた。街道口の人家から城内へわたる町屋根は、一望瓦礫の焼け野原と化しているではないか。

しかもただの火災や野火ではない。