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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
「どうもいたしはしませんのにさ」
「だからよ。もう師兄さんていうひとは」
「ア、いた」
「食いころしてやりたい。わかっているくせに。ええもう、わたしを焦らして。離さない。離さない。もうどんなになっても」
「いいんですか」
「なにが」
「ご主人の楊雄さんにさ」
「そんなこと、なんでいうの」
「それにあの、なんといいましたっけ。そうそう、石秀とかいう眼の恐い男もいるでしょ」
「あんなやつ。……ああわかった。あなたは恐いのね。恐くなったから、逃げ口上を仰しゃるのね」
「憎い?」
「そのまあ平気なお顔。悪魔。白い悪魔みたい」
「いま知ったんですか、この如海を。私は色魔なんですよ。ほんとの私という者はね。だから自分が恐ろしいのだ。それでもいい? ……。それでも」
「知らない」
ついと、顔を横にする。翡翠の耳環が充血した頸で小さく揺れ、その眦のものは、喜悦を待ち焦れる感涙に濡れ光り、一種の恐怖と甘い涙の滴りが、グッショリと、もみあげの毛まで濡らしている。
如海はおもむろに女の羞恥をとりのけていった。巧雲の肌は、そのまさぐりに絶えきれず、いくたびも白雪の乳房をのけぞらしては頸椎骨を前へ折り曲げ、そして唇を求めるらしい喘ぎをみせた。