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ひきょうのにちりんき

秘境の日輪旗

蘭 郁二郎

「秘境の日輪旗」少年文庫、新正堂、1942(昭和17)年9月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 84,829 字 · 169 页

青空文庫

兄のたより

兄のたより

明け方から降りだした雪が、お正午近くになっても、まだ、止まなかった。

灰色の空から、綿をちぎったような雪が、ヒラヒラと舞い落ちては、音もなく積って行く――。今朝、家を出る時には、それほど積っていなかったが、もう、十二、三センチは、たしかにあるらしい。

英夫は、「雪の進軍」の口笛を吹きながら歩いていた。

雪の進軍氷をふんで

どこが河やら道さえ知れず

馬は斃れる捨ててもおけず

…………

近ごろ、ラジオでもよくやる、溌剌とした行進曲が、降る雪の伴奏のように思われて、こうした雪の道を歩くのに、ふさわしかった。

歌って、へんなものだなあ――と、英夫は思った。知らず知らずの間に、この軍歌の口笛を吹いていたのだ。

今日は日曜日で、講道館に少年組の紅白試合があった。

英夫は、水道橋の講道館から、若松町の家まで、歩いてかえることにした。

紅軍が副将の英夫のところで、五人抜いたので、大将を一人残して勝った。英夫の足がはずんでいるのは、そのせいかも知れなかった。凱旋将軍の得意さ、つまり、意気揚々としてかえる……とでもいうのだろう。帽子や外套の肩に、しっとりと湿った雪が降り積っても、別に苦にはならなかった。