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さぶ
さぶ
山本 周五郎
「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页
栄二は頷いて立ち、いっしょに外へ出てから「なんだ」ときいた。
「おめえ松造とおとよの話を知ってるか」
「詳しいことは知らねえが、聞いたことは聞いた」と栄二が答えた、「二人がどうかしたのか」
「覗くやつがいるんだ」と万吉が云った、「口にするのもけがらわしいがよ」
女置場のおとよという女と、元結作りの松造という男が、いつのまにかできて、女が男の世話をするようになった。松造は行状もよく、外使いといって、自由に市中へも出られるし、請人さえあればいつでも島から解放されることになっていた。寄場では特に男女の接近は厳禁されていたが、どんなに禁じられても、ひそかに愛を通じあう者がないわけではないし、そういう者があっても、周囲の者たちは気づかないふりをし、役人たちの眼から庇ってやるようにするのが習慣になっていた。松造とおとよのことは、栄二もほのかに聞いていたし、いつかの夜おとよが、女置場からぬけ出してゆくのを見たこともあった。
「あの二人は陽気があったかくなってから、ときたまの夜、南の海っぱたで逢うんだ」と万吉は語った、「おらあ松つぁんから聞いたんだが、それをやっかむだけならまだしも、覗きにゆく野郎がいるんだ」