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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

「覗くとはなにを」

「二人の逢っているところをよ」万吉は唾を吐いてから云った、「油絞りのこぶって野郎を知ってるか、あにい」

栄二は知らなかった。

「油絞りの連中は相撲とりみてえな躯で、みんなべらぼうな力持ちだ」と万吉は続けた、「その中にこぶっていう仇名のある野郎がいる、首のここんとこに瘤があるんだが、そいつがまたくそ力のある暴れ者で、なかまの四、五人を相手に喧嘩をしても負けたためしのねえって野郎だ」

松造は三十一、おとよは三十だという。夜、人めを避けて逢うようになってからは、三日と逢わずにはいられない。できることなら毎晩でも逢いたいところだ。けれども、つい先ごろ気づいたのだが、二人が逢っているのを、こぶが覗きにゆくのだという、これには困ったと松造が万吉に訴えた。

「人のいろごとを覗きにいくなんて、口にするのもけがらわしい話だ、そうじゃねえか、あにい」と万吉は鼻息を荒くしながらいきまいた、「おらあ野郎を叩きのめしてくれようと思うんだが、残念ながらおれ一人じゃあとてもかないっこねえ、あべこべにのされちまうのはわかりきってるんだ」

「今夜もその伝か」と栄二がきいた。