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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

いってみると、その建物は水の中にがっしりと建っていて、中で大勢の唄をうたう声が、風の音をとおして聞えてきた。戸口は閉めてあるし、小屋ぜんたいが繩や綱で巻いてあった。

「おい、大丈夫か」栄二は引戸を力いっぱい叩きながら喚いた、「みんな無事か」

中の唄声が止まり、栄二の頭上から呼びかける者があった。ふり仰ぐとそこに小窓があり、誰かが首を出していた。

「もっこ部屋のぶしゅうだ」と栄二が仰向いてどなった、「清さんは大丈夫か」

小窓の首が消え、代りに清七が首を出した。もちろん顔は見えないが、声で清七だということがわかった。

「おらあ大丈夫だ」と清七が云った、「おめえはまたなんだってこんなとけえ来た」

「ようすをみにだ」

「聞えねえ」と清七が云った、「いま綱をおろすから、それにつかまってくれ」

投げられた綱は風に吹き払われるので、栄二がそれを掴むまでに、三度もやり直さなければならなかった。何人かが力を合わせて引きあげ、栄二が小窓からはいると、そこは棚のようになった中二階で、闇の中からわっという歓声があがった。

「頭に気をつけてくれ」と清七が云った、「ここは菜種袋を積んで置くところで、幅は九尺しきゃあねえし、頭の上はすぐに天床だ、まあここへ坐ってくれ」