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さぶ
さぶ
山本 周五郎
「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页
雨は同じような調子で、殆んど音もなくけぶっていた。
「おらほんとに知らなかったんだ」とさぶが云った、「ゆうべ粉袋を戸納へしまってたときに、勝手で使うから一つ出しておけって、おかみさんに云われた、だから一つだけ残しといたんだ、そしたらその袋が出しっ放しになってて、おかみさんは使ったあとでしまっとけって、その袋を返したのに、おれがしまい忘れたっていうんだ」
「癖だよ、癖じゃねえか」
「粉が湿気をくっちゃった、へまばかりする小僧だって」さぶは立停って、手の甲で眼のまわりをこすりながら泣いた、「――おら、返してもらわなかった、そんな覚えはほんとにねえんだ、ほんとに知らなかったんだ」
「癖だってば、おかみさんはなんとも思っちゃあいねえよ」
「だめだ、おら、だめだ、ほんとにとんまで、ぐずで、――自分でも知ってた、とても続けられやしねえ、もうたくさんだ」さぶは喉を詰らせた、「おら、思うんだが、いっそ葛西へ帰って、百姓をするほうがましだって」
広い河岸通りの、右が武家屋敷、左が大川で、もう少しゆくと横網になる。折助とも人足ともわからない中年の、ふうていのよくない男が二人、穴のある傘をさして、なにかくち早に話しながら、通りすぎていった。