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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

その男たちの、半纏の下から出ている裸の脛が、栄二にはひどく寒そうにみえた。さぶはあるきだしながら、小舟町の「芳古堂」へ奉公に来てから三年間の、休む暇もなくあびせられた小言と嘲笑と平手打ちのことを語った。それは訴えの強さではなく、赤児のなが泣きのような、弱よわしく平板なひびきを持っていた。大川の水がときたま、思いだしたように石垣を叩き、低い呟きの音をたてた。

「奉公が辛いのはどこだっておんなしこった、おかみさんの口の悪いのは癖だし」と栄二はつかえつかえ云った、「それにおめえ、女なんてもともと、――車だ」

栄二がさぶの腕に触り、二人は立停って川のほうへよけた。からの荷車を曳いた男がうしろから来て、二人を追いぬいていった。

「腕に職を付けるのは辛えさ」と栄二は続けた、「考えてみな、葛西へ帰ったって、朝から晩まで笑ってくらせやしねえだろう、それとも百姓はごしょう楽か」

「葛西のうちなら」とさぶが云った、「出ていけなんて云われることだけはありゃあしねえ」

「ほんとにそうか」

さぶは返辞をしなかった。栄二も返辞を期待していなかった。さぶは葛西にある実家のことを考えてみた。