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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

と与平は自慢そうに微笑した、「――私はここへ送られて来るまえ、南町奉行の仮牢にいたもんだ、あそこは町奉行所の中だが、こことは比べものにならないほど汚なかったし、喰べ物もそまつでまずかった、伝馬町のことは知らないが、大牢となれば、人の話だけでもおよそ察しがつくでしょう、このまえだったかな、おまえさんが押籠めを解かれた祝いにみんなで酒盛りをしたとき、一生この島でくらすと云った者が幾人かあった、覚えてるでしょう」

栄二は返辞をせずにじっとしていた。世間の下積みになって、世間のからくりに振りまわされながら、その日その日をかつかつに生きている人たちが、数えきれないほど多くいる。そういう人たちがここへ来たら、やっぱり二度と世間へ戻りたくない、と云うのではなかろうか。さぶも同じ組だ。世間にいるからこそとんまだのぐずだのと云われ、人に追い使われなければならない。だがここなら嘲弄もされず、午前八時から午後四時まで、与えられた仕事をすればいい。僅かな雑用を取られるだけで寝起きも只、風呂も、医者までも只だし、稼いだだけは自分の物になる。そうだ、さぶにはもってこいだな、と栄二は思った。