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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

「これは飼いごろしだ」栄二は独りになってからそう呟いた、「おれはまっぴらだ」

おすえは五日めごとに来ていた。仕事の手が放せないのをいいことに、栄二はずっと会わなかったが、毎月一の日が休みということがわかったのだろう、八月の十一日に来たときは、また岡安喜兵衛に呼ばれたので会った。ところが、いつかの小座敷へいってみると、おすえではなくて「すみよし」のおのぶが待っていた。

「なんだ」と栄二は立ったままで云った、「おめえまでが恥をかかせに来たのか」

おのぶはめげない表情で云った、「そう云われるだろうと思ったから、今日までがまんして来なかったのよ」

「話すことはなんにもねえぜ」

「坐るぐらい坐ってもいいでしょ」とおのぶは畳をそっと叩いた、「さぶちゃんのことで話があるのよ」

栄二は気がすすまない顔つきで坐った。

「はい、これ」おのぶは紙で包んだなにかの折を差出した、「つまらない物だけれど、あたしのお土産よ」

九の三

栄二はわれ知らず微笑した。相変らず歯切れのいい口ぶりだし、自分の手で出しながら「あたしの土産」とはっきり云うところなど、いかにもおのぶらしかったからである。