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さぶ
さぶ
山本 周五郎
「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页
と医者が云った、「うちみはかなりあるようですが、ほかに骨の折れたところはないでしょう、あとでよく診なければ慥かなことはいえませんが」
「よかった、それはよかった」と云う岡安喜兵衛の声が聞えた、「石と石が支えあったんだな、知らせを聞いてとんで来たときにはもうだめかと思った」
「ぶしゅう、大丈夫か」と清七が覗き込んで声をかけた。
「あとであとで」と医者が慌てて制止した、「いまはなにも云うな、口をきかせてはいけないんだ、みんなもう部屋へ戻るがいいぞ」
「担いでゆく者がいるでしょう」
戸板を持って来い、吊台のように紐を掛けて、下に蒲団を敷いて、などと医者が指図をした。
栄二は口の中がじゃりじゃりするので、注意ぶかく頭を横にし、二度も三度も唾をした。そのたびごとに、するどい痛みが全身にひろがった。けれども、その痛みがどこから起こるのかもわからないし、口の中の砂はきれいにならなかった。骨折した脛はすぐに切開しないと、骨を継ぐことができなくなる。なるべく早く山城河岸の中島先生に使いを出してくれ、と医者が云い、岡安喜兵衛がそのことを下役に命じた。
――忘れないぜ、みんな、と栄二は心の中で叫んだ。