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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

役所から支給される薪炭だけでは不足なので、あとは人足たちが銭を出しあって買いたしている。栄二はその銭も出せないばかりでなく、みんなの世話になっている身だ。働いているなかまのことを考えると、火の側へなど寄れるものではない、与平はそんなふうに推察しているようだ。けれども実際はそうではない、栄二は自分の中に起こった変化を、自分で慥かめようとしてけんめいなのだ。隙間風の冷たいことも、寒さで胴ぶるいの出ることも、それらが火の側にいればずっと楽になることもわかっていたが、いまの彼は、自分をそんなぬくぬくした場所に置きたくない、という気持なのであった。

「この隙間から吹き込む風の冷たさが、どんなに冷たいかをよくあじわうんだ」彼は腕組みをして呟いた、「――いまはめしを喰べたばかりだから、まだそれほど寒くはないが、もう少しすると胴ぶるいがで始めるだろう、どんなふうにして胴ぶるいが始まるか、そのときどんな気持がするかをよくあじわうんだ」

二十四になるこのとしまで、隙間風の冷たさや胴ぶるいを、意識してあじわったことはない、これが初めてのことだ。そのこと自身には意味がなくとも、それをさずにあじわう、という気持は大切なのだ。