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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

そうして麹町の家を出、本所の業平というところから、浅草の山谷、新鳥越、また本所へ戻って清水町と移りあるいた。このあいだに十樫の病気がいちじ軽快し、清水町にいた二年ほどはほそぼそながら寺子屋をひらくことができた。

「あたし父よりも母に似ているらしいんです」と云って娘は微笑した、「――父は温和しい一方でしょ、母のことはほんのうろ覚えなんですけれど、父の話やなんか思い合わせると、気の強い、はきはきした、どっちかというと派手好きな性分だったようですわ」

本所清水町で寺子屋を始めたのも、おせいが父にすすめたのだし、二年そこそこで病気が再発しても、おやめなさいとは云わなかった。おせいは麹町を出てから、ゆくさきざきで子守や走り使いをし、ときには長屋の狭い土間へ、駄菓子の箱を並べたりした。そうしながら一方では、縫物の上手な人がいれば、むりに頼んで教えてもらった。どこの町内にもそういう人はいるもので、十五の年にはもう絹物が扱えるようになった。

「ごめんなさい、こんな勝手ななが話をして」と云って娘は二人に頬笑んだ、「――父がまた倒れ、それからまもなくここへ移って来ましたの、ここなら知っている人はいませんから、としを隠してもわからないでしょ、去年の三月に来たとき、あたし十八だっていったんです、そのほうがいいお仕事も貰えるし、仕立