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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

賃もね」

そしていたずらっぽく首をすくめてみせた。栄二はもういちど、おとうさんの病気は、ときき直した。娘はあっさりした口ぶりで、痛んできたらあたためるだけで、そのほかに治療法はないそうだと答えた。父親に愛情をもっていないというのではなく、それがそうであるならどうしようもない、といったふうな、さっぱりと割り切った調子であった。

やがて雨があがり、二人は礼を述べて外へ出た。いまの夕立の名残りで、道の上には水溜りができ、道の両端にある溝は、溢れるほどの流れになっていた。

「くたびれやしないかい」とさぶが栄二にきいた。

「しっかりした娘だな」栄二は殆んど眼につかないくらいに片足をひきずりながら云った、「あの身の上ばなしなんかも、むだがなくって要領がいい、頭が切れるんだな」

「おいらがあの長屋へはいったのは十月で、十二月には坂本のうちを借りたから、本当につきあったのは八十五、六日なんだが」とさぶはいつもの舌ったるい調子で云った、「――そのあいだにいまの身の上ばなしを十回くらいも聞いたよ」

「おめえ、なにをしてやったんだ」

「店賃が溜って追立てをくってたんだ」さぶはてれくさそうに頭へ手をやった、「――おれがよっぽどお人好しにみえたんだろ、度胸がいいっていうのかな、差配を伴れておらのとこへやって来たんだ、この人が払ってくれる、