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さぶ
さぶ
山本 周五郎
「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页
栄二の顔は白くなり、ひき緊めた唇にも血のけがなかった。
「どうしたんだろう」とさぶが声をひそめて囁いた、「昨日までなんていうこともなかったのにな」
栄二はぼんやりした顔で、いいからゆけよと云い、持っていた自分の道具袋を、戸納の中へしまい戻して、仕事着をふだん着に着替えた。――芳古堂では仕事の割当てがきまっているから、受持ちを外されると躯があいてしまう。もちろん小僧なら手をあけている時間などはないけれども、栄二のようにとしが二十三で、上に三人も兄弟子がいるという、中途半端な立場だと、こんなとき身の置きどころに困るのであった。
彼は小僧の卯吉に断わって外へ出た。芳兵衛はおれの云わないことはきくなと云った。つまり理由は云えないということだろうが、仕事の途中で職人を替えるなどという例は、よほどの理由がなければないことで、その理由が云えないというのはどういうわけだろうかと思い、もちろん見当もつかないので、目的もなく街をあるいてゆくうちに、彼はすっかり頭が混乱してしまい、いっそ酒でも飲んでやろうかと、やけな気持にさえなった。
「なぜこれこれだと云ってくれないんだ」