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さんごくし

三国志

吉川 英治

06 孔明の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 161,356 字 · 323 页

青空文庫

そしてついに曹軍は、冀州城外三十里まで迫ったが、さすがに北国随一の要害であった。犠牲をかえりみず、惨憺たる猛攻撃をつづけたが、この堅城鉄壁はゆるぎもしないのである。

「これは胡桃の殻を手で叩いているようなものでしょう。外殻は何分にも堅固です。けれど中実は虫が蝕っているようです。兄弟相争い、諸臣の心は分離している。やがてその変が現れるまで、ここは兵をひいて、悠々待つべきではありますまいか」

これは曹操へ向って、郭嘉がすすめた言葉であった。曹操も、実にもと頷いて、急に総引揚げを断行した。

もちろん黎陽とか官渡とかの要地には、強力な部隊を、再征の日に備えて残して行ったことはいうまでもない。

冀州城は、ほっと、息づいた。――が、小康的な平時に返ると、たちまち、国主問題をめぐって、内部の葛藤が始まった。

袁譚はいまなお、城外の守備にあったので、

「城へ入れろ」

「入るをゆるさん」と、兄弟喧嘩だった。

すると一日、その袁譚から、急に折れて、酒宴の迎えがきた。兄のほうからそう折れて出られると、拒むこともできず、袁尚が迷っていると、謀士審配が教えた。

「あなたを招いて、油幕に火を放ち、焼き殺す計であると――或る者からちらと聞きました。