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さんごくし
三国志
吉川 英治
06 孔明の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 161,356 字 · 323 页
もちろん、藻抜けの殻。彼は、
「不覚っ」と、地だんだを踏み、追手をかけてみたが、獲るところもなかった。
そこで彼は、一計を案じて、自分の作った詩を、部下のうちで偽筆の巧みな者に命じ、墨黒々、客舎の壁に書かせておいた。
そして、急遽、
「一大事でござる」と城へ行って、劉表に会い、真しやかにこう告げた。
「常々、玄徳とその部下の者どもが、この荊州を奪わんとし、ご城下に参るたび、地形を測り攻め口を考究し、不穏な密会あると聞き及びおりますため、昨夜、小勢の兵をうかがわせ、様子をさぐらせておりましたところ、早くも事の発覚と見、一詩を壁に書き残したまま、風を喰らって新野へ逃げ失せましてございます。――ご当家のご恩もわすれて、まことに言語道断な振舞いで」
劉表はみなまで聞かないうち蒼白になっていた。急いで駒を命じ、自身、客舎へ行って、彼が書きのこして行ったという壁の詩を見つめた。
困シテ荊襄ヲ守ルスデニ数年
眼前空シク旧山川ニ対ス
蛟龍豈コレ池中ノ物ナランヤ
臥シテ風雷ヲ聴キ飛ンデ天ニ上ル
「……?」
劉表の鬢髪はふるえを見せていた。蔡瑁は今こそと、馬をすすめて、
「兵の用意はできています。