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うえすぎけんしん

上杉謙信

吉川 英治

「週刊朝日」1942(昭和17)年1月4日号~5月24日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,102 字 · 256 页

青空文庫

霧の濃淡も、怖ろしい勢いで渦まいている。そして陽の光が透して来るたびに、何か無数なものが、霧の裏でキラキラ光る。

上杉家で有名な長柄隊だ。大太刀に柄のついたような獲物を持った荒武者である。――と思うまに、その廻旋列は眼の前を激流の如くよぎり去って、忽ちべつな一隊があらわれている。閃々晃々、夕立のように足踏み揃えて迫らんとして来る槍ぶすまの一縦隊であった。

「――撃てッ」

鉄砲頭の開いた口が、腹いっぱいな声を出した。

どどんっ! ばん! ずどん!

不ぞろいな音響だった。強薬の加減だの湿り弾なども交じっているせいである。二十幾挺かの銃身中に、不発だったのも五、六挺はあった。

しかしこの鈍い音響も、また途端にばくとして揚がった弾煙の匂いも、甲冑の武者の血を猛ぶらすには充分なものだった。敵とも味方ともつかず、およそ二十五、六間ほどな双方の間隔から、わあっという喊声がいちどに揚がって、天地の朝を震わせた。

殺地のいのち

重厚な敵の前列が、徐々と――しかし狂瀾の相を示しながら――いわゆる武者押しというジリジリ詰めに追って来ると、いずれからともなく一方の陣列からわあっと声いっぱい叫ぶ。