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うえすぎけんしん

上杉謙信

吉川 英治

「週刊朝日」1942(昭和17)年1月4日号~5月24日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,102 字 · 256 页

青空文庫

「は……」

「よいお年をしながら、愚かないたずらに舌をうごかされな。戦とは、一個の村上義清が、わずか国を追われたぐらいで、知り尽したなどといえるほど、簡単なものでもなし、そのような意義の小さいものでもない。あなたの口吻から察すればあなたは戦の中をただ通って来たに過ぎないようだ。真の戦とは、何か、まだ御存知ないらしい」

「……左、左様でしょうか」

「混沌たるお顔色だな。かくいわれて初めて、真の戦とは何か、御不審を抱かれたであろう。嗤うべし。あなたは、この謙信が、九年にわたる信玄との血戦を、ただ其許に頼まれたための義心一片と思いこんでいられたか。……何で。何で」

謙信は声を放たずに肩で笑った。そしてなお荘重な語をつづけていう。

「考えてもごらんなさい。応仁以後、宇内の暗黒は、各地に割拠する豪族たちから、遅々、自覚されて、東海に徳川、織田の起つあり、西海に、毛利、大内の起るあり、甲山に信玄、ここに謙信、相模に北条、そして駿遠の堺に、今川氏の一朝に瓦滅するなどあって、今や日本のうごきは、急潮に変り、急激に大革新を示そうとしている。かかる時代のうしおの中に、いかに信濃の名族たろうと、一個の村上義清が亡ぼうと興ろうと、死のうと生きようと、何の問題でもない。