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うえすぎけんしん

上杉謙信

吉川 英治

「週刊朝日」1942(昭和17)年1月4日号~5月24日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,102 字 · 256 页

青空文庫

両雄ともに世を去ることの急だったのも一奇であり、何となく宿命的なものを想わせる。

日頃の謙信は実に強壮快健であったが、ただ酒を好んだ。彼が愛用したという馬上杯など、後々まで遺族や家臣の涙をそそった。今に上杉神社に遺っている日常の酒盃などもおそろしく大杯である。肴などに好みはなく時としては梅干一つで、斗酒を傾けたとあるからその快飲ぶりは想像に難くない。

むかしよりさだめし

四方にたち返り

治めさかふる

千代のしら雪

これは彼の旧作だ。若年上洛した折、将軍義輝と一夜雪見を催しながら詠み出でた一首という。

雪一色の美に寄せて、そのときもう胸に抱いていた復古の精神を吐いている。また雪よりも純な国体観を洩らしている。

義輝はこのときまだ弱冠十九歳の将軍だった。果たして彼の理想を汲み得たろうか否かわからない。しかし謙信は、その義輝が非業の死をとげ、次代の義昭将軍となっても、なお情誼を変えなかった。倒れんとする室町幕府を隠然扶けるに大いな力をかしていた。

為に、彼は信長と対立した。信長は彼とはまったく反対な倒壊者である。当然な衝突は、外交に軍事に、熾烈に闘わされた。