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うえすぎけんしん
上杉謙信
吉川 英治
「週刊朝日」1942(昭和17)年1月4日号~5月24日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,102 字 · 256 页
べつの道を行く者共も、その時刻におくるるな」
と、厳令した。
こうして、二軍となって、わかれた時が、すでに十五日の午だった。あすの夕刻までに、犀川、千曲川のあたりまで行き着くには、不眠不休の行軍をつづけなければならないだろう。
が、たれひとり「無理」とつぶやく者もなかった。行軍の苦しさは出ばなにある。最初の二、三日に苦しんでしまうと、何か、自分とはべつな、鉄の五体ができて来る気がするのだった。わけて越後衆は、合戦といえば、いつも国境を出て戦うことが定則になっていたから、かかる急行軍とて、決して、異とはしなかった。
謙信の統率する本隊は、翌る日のまだ陽の高いうちに、高井郡をよぎって、敵の海津城を牽制しつつ、候可峠から東条方面へ蜿って行った。
ここはもう完全なる敵地――信玄の勢力下であり――海津の城には、甲軍の猛将として聞えている高坂弾正昌信の精鋭がたて籠っているのである。
「追うや、いかに?」
と、謙信が、その動静を計っていると、城の望楼に、豆つぶのような武者の影が二、三、小手をかざして、こっちを眺めている様子だった。
途中から軍を二つにして、謙信自身、わざと迂回して来たのは、自分の選ぶ基地を有利に占め取るまで、この城から側面へ行動されるとうるさいし、十分な布陣を取れないおそれもあるので、その牽制と示威とを