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うえすぎけんしん

上杉謙信

吉川 英治

「週刊朝日」1942(昭和17)年1月4日号~5月24日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,102 字 · 256 页

青空文庫

連れ立って、加地安芸守を訪うと、安芸守も同意という。

長尾遠江守も、ここへ着陣したときから、しきりと地相のよくないことを主張していたひとりである。

誰や彼、いつか七、八人になった。深夜ではあったが、旗本から近習へと取次を仰いで、

「ちと、お目通りを仰ぎたく」

と、謙信へ通じてもらった。

陣幕の内が、明るくなった。篝へ薪を足したのであろう。謙信はすぐ起き上がって、

「何事か、打揃うて」

と、一同を見まわし、まだ眠らないのかと、咎めるような眼ざしであった。

長尾遠江守から、ことばを切って、一同の不安を訴えてみた。併せて、自分たちの意見として、

「やがて、近々に、甲州表の信玄が、大軍をひきいてこれに参るとせば、この拠地は、いよいよ不利となりましょう。いまのうちに、ぜひとも、他のよき場所へ、御陣替えねがわしく、御秘策もあることとは存じますが……」

と、畏る畏る希望を陳べた。

謙信は笑って、

「その儀か」

と、いった。そして、

「こよいは、将士みな疲れている故、ゆるゆる身をやすめて、明日にでも、評議せんと思うていたが、それほどみなが不安と存ずるなれば、直ちに、謙信のこころを打明けておかねばなるまい……。