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うえすぎけんしん
上杉謙信
吉川 英治
「週刊朝日」1942(昭和17)年1月4日号~5月24日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,102 字 · 256 页
「さかなを出せ。おい、土産はどうしたか」
一同して、責め立てると、
「さかなか」
と、弥太郎は、けろりとして、
「ここには無い」
「では、嘘か。謝れ。両手をついて、虚言を謝れ。さもなくば、腹でも切れ」
「ここに無いだけのことだ。何も切腹には及ばん」
「じゃあ、持って来い、すぐに」
「持って来てもよろしい。しかし――貴様たちこそ、言語道断だ」
「なにが言語道断だ」
「おれが酔うほどの酒もここにはありはしない。おれの携えて来るさかなとは、そんな安価なものじゃない。もっと酒を調達して来い。そうしたら持って来てやる」
「調達せんでも、酒などはまだいくらもある。汝がさかなを出さぬから控えていたのだ」
「なに、まだあるのか」
「さかなを出せ、さもなければ、両手をついて一同に謝れ」
「何の……ばかなっ。いま持って来る」
起ち上がると、ふらふら、雪の中へ出て行った。そしてまもなく、
「さあ、持って来たぞ。どうだこの肴は、天下の珍味、食ったことがあるか」
と、何やら手にぶらさげて来た物を、部屋の入口からさしあげて見せた。
「あっ……?」
そこにいた者はひと目見ると、悉く、酔をさましてしまった。