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けんきょうじゅなん
剣侠受難
国枝 史郎
「東京日日新聞」1926(大正15)年5月28日~11月14日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,479 字 · 394 页
すると続いて猿の声が、キーキーキーと聞こえてきた。
木立が深いので姿が見えない。と、派手やかな振り袖が、庭の一方から他の一方へ、木の間を縫って走って行った。しばらく経って追って行ったのは、毛だらけの猿の足である。
「オヤ妾をとらえるなんて、ほんとにいやらしい三吉だよ。お前、まるで文三のようだね」
手のひらでたたく音がした。とすぐ猿のなき声がした。
とまた派手やかな振り袖が、庭の一方から反対の方へ、木の間を縫って走って行った。
「ノロマのノロマの三吉や、どうしてそんなにノロマなの。とらえてごらんよ、さあ妾を」
ややあってノソノソした猿の足が、声のする方へ追っかけて行った。
どうやら鬼ゴッコをしているらしい。
その時一人の若者が、木戸をくぐってはいって来た。
「へ、へ、へ、へ、お嬢様、相変らずねんねえで」
「だあれ?」と娘の声がした。「文三さん? 何かご用?」ひどくその声は不平らしい。
「まだ親方は帰りませんかね」
「今夜あたり帰るとさ。……行ってくださいよ、用もないくせに。……ノロマのノロマの三吉や、とらえてごらん、さあ妾を!」また振り袖が木の間を縫う。
頭領帰館