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けんきょうじゅなん
剣侠受難
国枝 史郎
「東京日日新聞」1926(大正15)年5月28日~11月14日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,479 字 · 394 页
「ははあそれではもうここが、杉窪の里でございますかな」広太郎の方できき返した。
「はい、さようでございます。盆地をくだれば杉窪の里、ほんの眼の下でございますの」
「実はな、先ほども申しましたとおり、尋ねる人がありまして、まず手はじめに水戸の方を……といって何もその水戸に、尋ねるお方がいるものと、そう思ったのではございませんが、……つまり、一つにはうさ晴らし、霞ヶ浦の風景でも、探ってみようかと存じましてな。松戸の宿まで参りましたところ、眼についたは一つの石標、西、杉窪の里とある。実は以前より杉窪については、耳にしたこともございましたので、こういう場合、出掛けて行き、変った土地を見るもよかろうと、それで参ったのでございますよ」
「おやおやさようでございましたか。でも杉窪と申しましても、別に変った土地でもなく、家があって、人がいて……悪い人だっておりますのよ」
「ほほう、悪人もおりますかな?」
「文三といって大悪人……」
「ははあ、人殺しでもしましたので?」
「妾を追っかけるのでございますの」
「なるほど、そいつは悪い奴だ」広太郎愉快に笑ってしまった。
「でも、いいものもおりますの」